初めてあんな風に頬をうっすらと染めたハリーに誘われた夜は,嬉しくて,嬉しくて。

分かりやすいくらい,あの夜は浮かれていた。

それまでは思いもよらなかったのに,きっとプロポーズされるだなんて期待して。

身分さえ違えど,爵位を約束されているという事実や自分の積み重ねた実績は,それだけで私から不安を消していて。

逢いに行く前に,お洒落がしたいと。

それまで興味もなかった自分の身なりが突然恥ずかしく思えて,最低限の礼儀だなんて虚勢をはって。

私は研究室に入り浸っていたのが嘘のように,本来の家へ帰った。

ハリーのことばかりで,自分を愛してくれた両親の顔を最後に見たのがいつかも分からないくらいだったけど。

それでも久しぶりに逢えると思うと,子供心にわくわくしたのを覚えてる。



(あのまま,真っ直ぐハリーの元に向かえば,何か変わったのかしら)



家に帰ると,昔よりずっと暗い家の様子が引っ掛かった。

両親は私の顔を見た途端,息を飲んで。

なぜそんな反応をしたのか分からなくて戸惑った私は,辿々しく会話をした後,理由も分からない空気を読んで,存在しないかのように振る舞った。

自室で埃を被った自分の服を見ていると,こんなに少なかったかと言う気分になる。