「ハリーじゃ,ないの」

「違う!」



守れなかったのだから,そんなことは大して変わらない。

だけどアリーはそうは思っていないようだった。

だから,もう一度強く否定すると,アリーはようやく顔をあげる。



「ごめんなさい,ハリー。ほんとは,私に声をかけた瞬間から,その声を聞いた時から……分かってたの。何かが違うんだって。何年も,あなたのせいにして,誤解してごめんなさい」



謝ることなんて,何もないのに。

笑いながら,アリーが声を震わせる。

本当は泣きたいだけなのに,笑うのは,僕に心を許していないからだ。

隠したいと,僕が本能で思わせているからだ。

昔の彼女なら,きっとわんわん泣いてくれた。

両手を広げたら,こんなときくらい飛び込んでくれた。

でも,今は違う。

嗚咽ひとつ出さないし,泣くつもりもない。

たとえ僕から歩み寄っても,拒否をしてまた一歩下がるだろう。

彼女の全身が,そう訴えていた。