「何でと言ったわね,"ダニー",ダニー·ウェストン!
……ふ。あの日,扉の前に私はいたのよ。何かに夢中で気付かなかったみたいだけど」
「違う,違うの……私が,私が……っ。元々,ダニーの事が好きだった。だからっ! エヴィーが帰ってこないことに苦しむダニーを見てられなくて。だから私が無理矢理さそっ」
「だから。全部聞いてたのよ,ベッキー·アトラン。せめて体だけでもあの子を返そうと,話をしに言ったあの日,全部!
あなたの捻りない慰めるような誘いに,ダニーがすぐ転がったこと。事後,馬鹿みたいに後悔したあなた達が,あなたが,無かったことにすると決めたこと。その上で,エヴィーにも隠し通す気でいたこと」
(もう,聞きたくない)
黙ってくれよ。
こんなんじゃ,エヴィーが報われない。
あんな姿になって,埋葬ひとつされず,僕たちを見下ろしているのに。
過去になれない自分の死が,どんなにつらいことか。
「ベッキー,いい? 純粋で綺麗で特別なあの子はね,まだ,生娘だったのよ」
ーもちろん,知ってたわよね?
視線が初めて,僕に流れた。
金縛りにでもあったかのように,何も,反応を返せない。