女性は空中で1度回転し,その勢いすら利用してダニーに斬りかかった。
ダニーの抜いた剣と噛み合う塊。
最初から戦うことが目的ではなかったとでも言うように,グッと力を加えた女性はダニーの顔に耳を寄せる。
遠目にも,彼女がなにかを言ったのが分かった。
その一瞬で,強い意志を持って飛び出したとは思えないほど簡単に,ダニーが動揺する。
焦りと共に乱れた剣筋から,体がぐらりと揺れた。
「な,ん……。! ベッキ……」
突然,ダニーは勢い良く振り向いた。
今度は地面にたつ僕らの方へ,女性がミサイルのように飛んでくる。
それだけでどこを目指しているかなんて分かるはずもない。
なぜ,ダニーはベッキーだと思ったのだろう。
足場をいくつか発現させ,誰よりも早くベッキーの元へ辿り着く女性。
仕方なく僕が咄嗟に牽制の意味もこめて腕を向けると,女性は鋭く僕を一瞥した。
その覇気の強さに,仲間の危機にも関わらず動きを止めてしまう。
それすら彼女の頭の中で予測されていたのだろう。
女性はその隙を,僕に目を向けることなく活用し,ベッキーを押し倒した。
体当たりをくらい,跨がれるベッキー。
首元には女性の発現させた塊,刃物のような物を突き付けられる。
そのせいで,僕も身動きが取れなくなった。