「これ以上消費したくない」



だけど,魔法を使わずにあの女性の元に辿り着くのは不可能。

だから,僕は垂れ流された糸を強く引っ張った。

中から音がして,やがて記憶の外套と同じものを身に付けた女性が出てくる。



「せっかく見逃してあげようと思ったのに。何の用かしら?」



あなた達まで馬鹿正直に,と僕の耳に届いた。

もうあのたった1度からずいぶん経った。

けれど,僕の記憶にある女性の姿とは少し変わっていると思う。

あの力強さが,自信が,感じられない。

僕たちを見下ろす表情は冷たく,怒っているようにも失望しているようにも,軽蔑しているようにも見えて数多くの感情を思わせた。

けれど暗い瞳の奥に,ずっと僕たちが来るのを待っていたかのような強い意志を確かに感じる。

森の女性への返答に口を開こうとしたダニーを制して,僕が応じた。



「エヴィーを」



その言葉に,女性が唇をひき結ぶ。

分かっていただろうに,微かな抵抗を感じた。