理由はいくつかあった。

客観的なもの,個人的なもの。

そのうちの1つでもある,知らなければ聞こえもしなない微弱な音を,皆に説明するより前に私の耳がとらえる。



「っ引き返して! 私達のことはもうとっくにバレてる!!!」



突き飛ばすつもりでダニーを押した。

少しぐらつくだけの大きな身体が,反射で踵を返す。



(もし本当に"エルさん"なら,師匠は悪くない! 師匠の魔法は確かに画期的で凄いけど,私にだって使えた。それって……同じ人間ってことでしょう?!?)



エルさんなら,私達が逃げ帰る必要なんてない。

だけど。



(こんな武装して,夜中にこっそり来るなんて)



まるで私がエルさんを殺すために,わざわざ案内してきたみたい。

魔法に絞ることにしたとは言え,私の腰にも短剣が。

ダニーやノアは長剣が刺さっている。

全て置くなら,私だけ……もしくはベッキーと2人でなら何事もなかったように振る舞える自信はある。

たとえ,もうくるなと言われたような私の身だとしても。