『ねえ』
何をしているの,と。
たまたま隣に立っていたお世話係さんの裾を引くと,その女性はすぐに気が付いてくれて。
『あら……あれは迷子では無いですね。可哀想に,心を患ってしまったのでしょう』
不憫そうに彼女は言うと,私の背中をぽんと押しておじいさんを私の視界から外した。
『中にはあのおじいさんとは違い,大きな声を出したりする方もいらっしゃいます。エヴィー様はまだ小さいのですから,不用意に近づいては行けませんよ。
私達に出来ることはありません。が,迷子の方と同じ対応は出来るでしょう。他の職員のもとに……』
たっとすり抜けて,私はベンチに項垂れるおじいさんの元へ走った。
握った手は,それまで触った誰の手よりもかさかさで,顔もしわしわだった。
出会った中で,1番歳を取っていたその人が,私には不思議だった。
突然子供に片手を両手で包まれて,レナルドおじさんはとても驚いた顔をしていた。
私達はお互い何も言わず,ただじぃっと見つめあった。
『も,申し訳ありません! エヴィー様,突然人様に触れてはいけないのですよ!!』
結局,一言も話せないまま引き離されてしまったけれど。
その数年後に,私達はもう一度出会うことになる。