「おい、そこイチャつくな。そろそろ時間やばいぞ。」

「イチャ…?!ご、ごめんなさい!」

私は顔を真っ赤にしながら勢いよく座る。

…あれ?
慶くんの方をちらっと見ると、慶くんがマスクをしていつも学校でいる時のような格好になっていた。

「…何」

「あ、いや、マスクしたらいつもの慶くんだなぁと思って。」

そう言うと、慶くんはフッと笑い、「なんだよそれ」と言った。

あ、慶くんの笑顔、初めて見たかも…
マスク越しとはいえ、いつもより柔らかい表情なのが伝わる。

「何、そんなまじまじと見んな。」

「あ、いや、ごめん!慶くんの笑顔初めて見たから」

そう言うと、慶くんは「あっそ」っと言って窓の方を見てしまった。

あれ、もしかして気を悪くさせちゃったかな…

「恵麻さん、こいつは気にしなくて良いよ。こういう時は、大体照れてるだけだから。」

え…そうなの、かな?
もう一度、慶くんの方を見る。

「それより、慶と恵麻さんが仲良くなってくれて、本当に嬉しいな。やっぱり恵麻さんは凄いね。」

「別に、仲良くない。」

「慶は素直じゃないなぁ」

そんな他愛のない会話をしながら、私たちは学校へ向かっていく。



「恵麻さん、学校に着いたよ。」

陸斗くんがそう言うと、車もゆっくりと停車し、慶くんはカバンを持って車から出ていった。

車で20分くらい…結構遠いんだな…

「大丈夫?立てそう?」

「うん。ありがとう陸斗くん。」

そう言って私も慶くんや陸斗くんにつづいて立ち上がり、運転手さんに「ありがとうございました。」と言って車をおりる。

「恵麻さん、すごい丁寧だね。久我組の奴らはあんなお礼する奴なんて居ないから、前田(マエダ)…運転してた人すごい驚いてたよ。」