ミッテール皇国は一年を通じて過ごしやすい気候だが、その体格のせいか人より暑さを感じるらしく、短いブリーチズを穿くのが常だ。

彼の左手首には白い魔石のバングルが着けられている。ダリルは風属性の魔力の持ち主である。
ミッテール皇国内に届けられる書簡や荷物類は、すべて風魔法によって届けられる。今回のパーティーの招待状ももちろんそうだ。
風魔法を扱う人に人気の職場が、文の配達などを請け負う文配省である。

執務机の上には分厚い本が山積みにされ、背後の書棚にもずらりと並ぶ。執務室というよりは小規模な図書館のよう。紙特有の匂いが立ち込めている。
並んだ本のタイトルから、魔石関連や大陸や皇国の歴史関連の書物の類だとエリーヌは推測した。


「ご無沙汰でしたな、ダリル殿」
「フローレス侯爵殿下、この度はパーティーにお招きいただきありがとうございました」


エドガーに続いてエリーヌも挨拶をする。ドレスをつまみ軽く膝を曲げた。


「エドガー殿は相変わらず元気そうだ。エリーヌ殿はしばらく会わないうちにまた美しくなられおって」
「もったいないお言葉にございます」


(ダリル様ってば本当にお上手なんだから)

エリーヌは、彼の言葉はお世辞だと信じて止まない。