(私ったら、なにをしているの……!)

いきなり吹きつけた風を恨みたい気持ちでいっぱいだ。もちろん意志のない風にとっては濡れ衣にほかならない。


「……いや」


リオネルはひと言そう返し、足を進行方向へ向ける。令嬢たちのざわめきをものともしない悠然とした彼のあとを追い、側近たちがパラパラと続く。

エリーヌは視界から彼の革靴が消えたのを見計らい、ゆっくり目線を上げた。
その背中に心の中でもう一度詫び、少しずつ息を吐き出していく。

(……心臓が止まるかと思ったわ。まさか皇帝陛下にお会いするなんて)

せいぜい遠目から見る程度だろうと思っていたため、突然の事態にまだ体は震えている。


「エリーヌ、魔石が」
「え?」


エドガーに言われてバングルに目を落とすと、やわらかな光を発しているように見える。しかしそれは先ほどのように一瞬で、すぐにいつもと変わらない状態に戻った。