まるで透明のベールに覆われているかのように、彼の周りだけ空気感が違う。

(あのお方が皇帝陛下……。とても美しいけど、やっぱり凄みを感じるわ)

大陸を制した一国の主であれば当然だが、畏怖を覚えるくらいに圧倒される。
いよいよ皇妃選びにやって来たのかと思ったが、すれ違う令嬢たちと言葉を交わすこともなく淡々とした表情で歩みを止めない。


「陛下、せっかくですから交流を」
「特に話すことなどないと何度言ったらわかるんだ」
「それではこのパーティーの意味が」
「意味など最初からないようなもの。こうして顔を出すだけで十分だろ」
「では、せめてその険しい表情をもう少し和らげては」


側近と話しながら、どんどんエリーヌたちのほうに向かってくる。

このパーティーが皇妃候補を集めたものであり、リオネルはまったく興味を示していないのがその会話や眉間にしわを寄せた様子からわかる。

(アガットが言っていたのは本当だったんだわ)

グラスをベンチに置いてエドガーと揃って立ち上がり、目線を下げて彼らが通り過ぎるのを待っていると、エリーヌの周りを風がふわりと通り過ぎた。