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もうなにもかも終わり。
ミュリエルは絶望的な気持ちだった。

愛するマティアスが非業の死を遂げたと知らされたのは今朝早く。国王である彼の父、ステインとの死闘の末だったという。

彼のいない世界にミュリエルの居場所はない。

城を抜け出したミュリエルはひとり、海が見下ろせる断崖絶壁に佇んでいた。

遥か下には大きな波が岩肌に打ち付け、白い泡となって空に海に飛ぶ。

(魔力なんて……聖なる力なんて、そんなものがなんの役に立った? 私は愛する人さえ守れなかった)

凄まじい風が海から吹き上げ、ミュリエルの長い髪と心を激しくかき乱す。

彼女の心を投影しているのか、世界の未来を暗示しているのか、灰色の重い雲がどこまでも広がっている。遠くでは稲光が走り、轟々と地鳴りのような音を響かせた。


「こんなものなど……」


ミュリエルは左手首に巻かれたバングルを外し、力任せに波間に投げる。透明の魔石は激しい光を放ったあと、暗い海に沈んだ。