しかしエリーヌは、夢に見たミュリエルの魔法を真似て口ずさんだだけだ。魔力のない人間がいくら唱えようが、魔法が発動されるわけがない。

(私には魔力なんてないんだもの……)

それとなく左手にある魔石を見ると、光を浴びたわけでもないのにきらりと輝いたため、慌てて袖口を下ろした。


「エリーヌこそ、大丈夫? 倒れたって聞いて気が気じゃなかったんだ」
「私はなんともありません。ご心配をおかけしてすみませんでした」
「よかった。じゃあ中でもっと話そうよ」


アンリはニコニコ顔で部屋の中を覗き込んだ。


「ごめんなさい。今日は陛下から、アガットとふたりで部屋にいるように申しつけられているんです」
「エリーヌまでそんなこと言うのか? 昨夜だってここへ――」
「失礼します。エリーヌ様、陛下から、また文が届きました」


アンリとの間にアガットが恐縮しつつ割り込む。通常であればアンリとの会話を遮るような真似はしないだろうが、リオネルが絡んでいるため致し方ない。


「陛下から?」