自分がどれだけ忙しない時間を過ごしてきたのかを思い知る。ここには眠るために帰ってきただけだった。

しかしその時間は、いつしかリオネルにとって安らぎになっていた。サシェのおかげもあるのかもしれない。

だがそれだけではないのは、リオネル自身も気づきはじめている。
形ばかりの夫婦を演じるだけのはずだった。離縁ありきの結婚だった。

それなのに……。

なんとも説明のつかない想いが、急に大きく膨れ上がってくる。

寝具の上に置かれたエリーヌの手に、そっと自分の手を重ねた。


「エリーヌ、キミは不思議な女性だな」


こんなにも簡単に心に入り込んでくるのだから。

(しかし、魔石同士が反応するなどあり得るのか……?)

魔石研究家として名高いダリルの言葉とはいえ、これまでそんな話を聞いたことはない。相性こそあれど、石そのものが引き合うなど信じがたい話なのだ。
エリーヌの魔石に自分のそれを近づけると、僅かに光を帯びたように見えた。