「ちぇっ、そうやってまたエリーヌを独り占めか。ったく、いっつもいっつも」


ぶつぶつ言いながらも、アンリはリオネルに従い翡翠宮に足を向けた。


「送らぬが、ちゃんと帰れよ」
「はいはい」


アンリは面倒くさそうに返し、背を向けたまま手を振った。


「行くぞ」


馬に声をかけ、瑠璃宮へ急ぐ。寝室に入ると、エリーヌは寝息を立てていた。

心配で付き添っていたアガットと交代し、寝台に上がる。横向きに寝転がり、頬杖を突いた。

血色のいい頬を見て安堵する。シルクのように艶やかなピンクブラウンの髪を梳くと、指の間をさらさらと流れる様が心地いい。
大きな瞳は閉じられ、色づきのいい唇は今にもなにかをしゃべりだしそうである。

(こうしてエリーヌの寝顔をまじまじと見るのは初めてだな)