アガットがエリーヌの髪に花飾りをつける。それはフランネルフラワーという、皇国を代表する花だった。細い花びらがいくつも重なり、まあるく球体に咲く愛らしい花だ。


「美しいだなんて全然。なんだか恥ずかしいわ」


侍女としてあたり前の褒め言葉だとわかってはいるが、エリーヌは鏡の前で頬を赤くして俯いた。

支度を終え、エリーヌはエドガーとともに会場である宮殿の裏側に位置する庭に向かった。

広大な敷地内の一画にある庭は草花が咲き乱れ、噴水が点在している。ドラゴンや一角獣など、空想の動物を模した彫刻からは絶えず水が流れ、涼しげな雰囲気を醸し出す。

一見バラバラに配置されているかに見える噴水は、ミッテール皇国で守護の意味合いが強い五角形のそれぞれの頂点に配されていた。
左右対称に設計された宮殿は、裏側から見ても重厚で華麗だ。

弦楽器の生演奏もはじまり、パーティーがいよいよ華やいでいく。料理や飲み物も振る舞われており、瑞々しい花の香りと食欲をそそる匂いが漂っていた。

庭に集う人たちがここぞとばかりに着飾っているのは、アガットが言っていたことが真実だからなのか。それとも皇都に暮らす貴族令嬢たちにとっては普通なのか。