ミッテール皇国の皇帝、リオネル・シェフェール。彼は先の大戦で魔法騎士団の最高司令官として勝利を収めた後、二十五歳で即位した若き皇帝である。

ミッテール皇国では、年齢にかかわらず皇妃との間に産まれた男子が第一の皇位継承者と決められている。しかし前皇妃の皇太子が現在十二歳であるという理由から、側妃の子であるリオネルが皇帝の座に据えられた。

これまでであれば十二歳だろうと皇帝になり、成人するまでは側近たちが政治的な役割を担うのが通例であった。
それなのに皇帝の座をリオネルにという話がすんなり進んだのは、その地位に恥じない功績を収めているのはもちろん、前皇妃も側妃もすでに亡くなっているため、余計な諍いが起こらなかったせいでもあるだろう。

大戦中は周辺諸国に軍神と恐れられていたが、わずか一年で、戦により混乱した大陸に平穏と安定をもたらした手腕は国民に広く知られている。

しかし現在二十六歳のリオネルは、心から信頼した臣下でなければ会話はせず、近寄らせもしないのだとか。結婚を渋るため、最近では女性嫌いという噂も立っているらしい。
皇帝ともなれば世継ぎを求められるのは当然。上皇がそんな彼を心配して、あれこれ策を練るのは仕方がないだろう。


「エリーヌ様も候補のおひとりなのだと思いますわ」
「いえいえっ、私は違うんです」