「し、しかし殿下! 恥ずかしながらオティリエは凡庸で――大した教育を受けさせておりません。申し訳ございませんが殿下のお役には立たないかと」

「凡庸、ねえ。……なるほど。侯爵は僕の人を見る目を信用できないのかな?」

「い、いえ! その……そういうわけではございませんが、しかし!」


 オティリエの父親が慌てふためく。


【まずい……『大した教育は受けさせていない』と言うのは大嘘だ。オティリエにはまったくと言っていいほど教育を受けさせていない。しかし、そんな内情を殿下には知られたくはない。ただでさえ不興を買っている状態なのに、これ以上は……】


 彼はあれこれ考えたのち、気まずそうに視線をそらした。


「殿下の人を見る目はたしかです。本当に、素晴らしい慧眼だと思います。しかし、私はオティリエよりもイアマのほうが殿下の即戦力になれると思うのです。あの子にはありとあらゆる教育を受けさせましたから」

「即戦力、ねえ……」

「そうです。しかし、もしも殿下がオティリエを補佐官にと本気でお望みなら、この私のすべてをかけてオティリエを教育をいたしましょう。なれど、そのためにはもうしばらくお時間をいただきたい。どうか、どうかご一考いただけないでしょうか?」


 父親が大きく頭を下げる。オティリエは思わずうつむいてしまった。