「うん、知ってる。今度の夜会ではダンスも踊るから、一緒に練習しなきゃね。ドレスもとびきり可愛い一着を準備しなくちゃいけないし、夜会までのあいだにやることがたくさんだ。でも……」

「でも?」


 ヴァーリックはそこで言葉を区切ると、屈託のない笑みを浮かべてオティリエのことを抱きしめる。


「すっごく楽しみだ! 早くみんなに自慢して回りたい。僕の婚約者はこんなに可愛くて素晴らしい女性なんだよって」

「ヴァーリック様……」


 ドキドキとオティリエの心臓が大きく高鳴る。けれどそれは彼女だけでなく、ヴァーリックも同じのようで。


「私も楽しみです」


 彼のことを抱き返しつつ、オティリエは満面の笑みでそうこたえた。


***


 それからあっという間に月日が経ち、いよいよ明日は夜会の日だ。オティリエは緊張を高まらせつつ、いつものように仕事をしている。


「オティリエ、今日は仕事が終わったらそのまま残ってもらってもいい? 会わせたい人がいるんだ」

「会わせたい人?」


 一体誰だろう? オティリエは疑問を抱きながらも黙々と仕事をこなす。
 やがて終業時刻が終わり、他の補佐官たちが執務室を出たところで、ようやくそのこたえがわかった。


「オティリエ」

「お兄様?」


 来訪者はアルドリッヒだった。優しくふわりと抱き寄せられ、オティリエは胸が温かくなる。