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「婚約披露パーティー、ですか?」

「うん。国内の貴族たちを呼び寄せて未来の妃をお披露目する――そういう習わしなんだ」


 オティリエの質問にヴァーリックがこたえる。
 今日は仕事は休み。オティリエはヴァーリックの私室に呼ばれ、二人でお茶を飲んでいた。


「未来の妃……」


 たしかにそのとおりなのだが、言葉にされるとなんだか緊張してしまう。結婚への覚悟はかたまったものの、プレッシャーを感じずにはいられない。


「大丈夫だよ、オティリエ。僕がついているから」


 かたく繋がれた手のひら。彼はオティリエの手の甲に触れるだけのキスをする。ぶわっと頬が熱くなるのを感じながら、オティリエはコクリとうなずいた。


「ですが、夜会に出席するのはヴァーリック様にはじめてお会いした夜会が最初で最後なので……きちんと対応ができるか心配です」


 実家で習ったのは王族に挨拶をするときの口上や頭の下げ方といった最低限の礼儀作法だけだ。けれど、今回は王太子の婚約者として出席するのだから、あのとき以上にきちんとした対応ができなければならない。