「今回ばかりは? ……そんなこと言って! お父様はいつもそう。どれだけお願いしてもオティリエを連れ戻してくれなかったし、わたくしの言う事なんてちっとも聞いてくれなかったじゃない! ひどいわ! どうしてそんなひどいことをするの!? どうして!?」


「そうだな……」


 そう言って父親がじっとイアマの瞳を覗き込む。


「逆に、どうして父様は今までおまえの言うことを聞いていたのだろうな? ……どうして聞いてやらなきゃならないんだろうな? なぁ、イアマ?」

「え?」


 まるで憑き物が落ちたかのような表情。イアマの心臓がドッドッと嫌な音を立てて鳴り響く。


(どういうこと……?)


 父親が、使用人たちがイアマの言うことを聞くのは当たり前のことだ。なぜならそれが魅了――洗脳の力なのだから。今になってどうしてそんなことを疑問に思う? イアマに歯向かおうとするのだろう――?


「とにかく、もう決まったことだ。わかったら、これ以上オティリエの邪魔をするな。……いいな」


 父親はそう言ってイアマの部屋をあとにする。爪が手のひらに食い込んでひどく痛い。けれど、彼女の心の痛みはそれ以上のものだった。これまで味わったことのない屈辱――憎しみがイアマを焼く。


「許せない」


 このまま終われるはずがない。イアマは復讐の炎を燃え盛らせるのだった。