「フィリップ! 今、オティリエって言った!? オティリエは? まだそこにいる? いるなら――」

「え!? ……と、ヴァーリック様?」


 執務室の扉が唐突に開き、ヴァーリックが勢いよく顔を出す。たっぷり見つめ合うこと数秒。ヴァーリックは頬を真っ赤に染め、それからゆっくりと視線をそらす。


「あ……あの」

「ごめん」

「え!? えっと……」


 どうして謝られてしまうのだろう? オティリエは困惑しつつキョロキョロと視線をさまよわせる。


「オティリエの名前が聞こえた気がして。もしもオティリエが通りがかったなら呼び止めてもらおうと思って……それで急いで部屋を飛び出したんだけど」


 はあ、と長いため息をつきつつ、ヴァーリックは恥ずかしそうに顔を伏せた。


【あーーあ……カッコ悪い。どれだけオティリエに会いたかったんだよ、僕】

「え?」


 他の誰にも……オティリエ以外に見えないよう、ヴァーリックがチラリと顔を上げる。真っ赤な頬に眉間にシワの寄った悔しげな表情、瞳はかすかに潤んでおり、見ているこちらがドキッとしてしまう。