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 ちょうどその頃、アインホルン邸をひとりの男性が訪れていた。


「お久しぶりです、お兄様!」


 イアマが兄であるアルドリッヒにギュッと抱きつく。アルドリッヒはため息をつきつつ「久しぶりだな」と返事をした。


「わたくし三カ月間もずーーっとお返事を待っていたのよ? これまで一体なにをしていらっしゃったの?」

「……仕事が忙しかったんだ。返事を書くような余裕はなかった」


 アルドリッヒは神殿の調査を担当していたのだから、イアマにかまっている時間などない。けれど、イアマがあまりにもしつこく手紙を寄越すものだから、ようやく仕事が片付いた今夜、こうして屋敷を訪れたのだが。


「それで? オティリエを連れ戻してくれる話は? 一体どうなっているの?」


 イアマが瞳を輝かせる。アルドリッヒは眉間にシワを寄せ、もう一度小さく息をついた。


「イアマ――オティリエはもう、ここには戻ってこないよ」

「え?」


 まるで憐れむような、蔑むような顔でアルドリッヒがイアマを見つめる。こんな表情、生まれてこの方アルドリッヒから向けられたことはない。得も言われぬ焦燥感にかられながら、イアマは首を横に振った。


「そんな……どうして? あの子なんて地味で陰気な能無しでしょう? 城に居てもお荷物になるだけで……」

「お荷物? とんでもない。オティリエはヴァーリック殿下の補佐官として、とても立派に働いていたよ。屋敷にこもって威張り散らしているどこかの誰かとは違ってね」

「な、なんですって!?」


 痛烈な嫌味にイアマの顔が真っ赤に染まる。