「オティリエ、これからもずっと僕の側にいてほしい」

「……え?」


 トクントクンとオティリエの心臓が高鳴る。ともすればそれはプロポーズの言葉のよう。けれど、そんなはずはないと思い直す。


(だって、ヴァーリック様は王太子だもの)


 そんなことを軽々しく口にできる立場ではない。勘違いしてはいけない――そう自分に言い聞かせる。


「ありがとうございます。そんなふうに言っていただけて本当に光栄です。補佐官として、一生お側にお仕えします」


 恥ずかしくて照れくさくて――動揺しているのを悟られたくなくて、オティリエはそっと下を向く。


「補佐官として、か。……うん、そうだね。オティリエならきっとそうこたえると思ってた」


 ヴァーリックはそう言って小さく笑ったあと、まじまじとオティリエを見つめ続ける。


「あの、ヴァーリック様?」


 あまり見つめないでほしい。オティリエはうつむいたままチラリとヴァーリックの表情をうかがう。


「もう一度……今度はオティリエが勘違いしようのない状況を作って、ちゃんと伝えるから」

「え?」


 思わせぶりな言葉と手の甲に触れるやわらかな熱。チュッと小さな音が響き、オティリエの身体が熱くなる。


(勘違いしようのない状況って……どういう状況?)


 けれど、そんなことを尋ねる体力も気力も残っていない。オティリエはドキドキと胸を高鳴らせ続けた。