「すみません、私ったら……。ヴァーリック様はそんなことまで考えてくださっていたんですね」

「謝る必要なんてないよ。僕が言わなかったし、聞かせなかっただけだからね。だけど、もうそんな必要はないのかな?」


 ヴァーリックから改めて尋ねられ、オティリエはこの一週間の自分の状況をきちんと振り返ってみる。


「えっと……そうですね。たしかに最近は、心の声があまり気にならなくなってきました。聞こえるけど聞こえないと申しましょうか。今なら夜会や人の多い場所でも怖くないと思う程度には慣れてきたと思います」


 同じ部屋で働く他の補佐官たちは、ありとあらゆる考え事をしながら仕事をしている。そのとき作成している書類の内容を心のなかでつぶやいている者もいれば、目の前の仕事をこなしながら次の仕事の段取りを考えている者、交渉を予定している文官とのやり取りをひたすらシミュレーションしている者もいるし、ふとしたときに婚約者の顔を思い浮かべて嬉しそうにしている補佐官もいる。

 そんな心の声たちに、はじめはオティリエも戸惑った。けれど、日が経つにつれ段々耳が、心が慣れていく。聞いているけれど聞いていない――聞き流すということを覚えたのだ。

 会話をしているときは別として、そうでないときは無意識に『聞かない』という選択ができるようになってきた気がする。もちろん、実家のようにみながオティリエに意識――とりわけ悪意を向けているわけではないという事情も大きいが、過去のオティリエには決してできなかったことだ。