「わぁ……素敵なドレス」


 部屋に届けられた藤色のドレスを見ながら、オティリエは瞳を輝かせる。物心がついて以降、こんなにも鮮やかな色合いのドレスを着るのははじめてだった。光沢のあるシルク地に袖の部分は繊細に編まれたレースでできている。首飾りとイヤリングも一緒に届けられており、オティリエは密かに息を呑んだ。


「これ、本当に私に用意されたものよね?」

「さようでございます」


 相変わらず侍女たちは冷たかったものの、この日はいつもより気にならなかった。

 ドレスが豪華なのはオティリエのためではなく、アインホルン家の威厳を示すため――そうとわかっていても、嬉しいものは嬉しい。

 着替えを済ませてから化粧をしてもらい、鏡のなかの自分と向き合う。まるで魔法にかけられたかのよう――別人に生まれ変わったような心地がした。


(これならお父様もお姉様も、少しは私のことを認めてくれるかも)


 今のオティリエはみっともなくもみすぼらしくもないはずだ。ほんの少しの期待を胸に玄関ホールへと降りる。けれど次の瞬間、オティリエは思わず息を呑んだ。


「さすがオティリエ……いいわ。これぞわたくしの引き立て役って感じね」


 イアマが艶やかに笑う。彼女が着ているドレスはオティリエよりも数段高価なものだとひと目でわかった。


「どう? 美しいでしょう? 仕立て屋を急かして最高のドレスを作り上げてもらったの」

「……はい、そう思います」


 素晴らしいのはドレスだけじゃない。鮮やかに施された化粧も、姉妹の瞳と同じ色の大きなバイオレットサファイアの首飾りも、華やかにまとめ上げられた金髪もすべてが格式高く美しかった。