冷えた唇では上手くしゃべれなくて、声が震えた。
 それでも、エリックは急かさない。
 シュゼットが話し出すまでじっと待っていてくれる。

「……自分は我慢強いと思っていました。夫にないがしろにされても耐えられると信じてきました。でも、そうではなかったみたいです。愛されないと、人は弱くなるんですね」

 アンドレがシュゼットのことを妻として扱ってくれたら、きっともっと強くいられた。
 ミランダに何を言われても王妃らしく微笑んでいなせた。

 カルロッタや両親にも酷い言葉は投げかけられてきたシュゼットは、リシャールと違って怖いものなどないはずだった。

(でも、本当は)

 シュゼットは弱かった。
 弱いことを認めたくなくて、物と会話して心を慰めて、その場しのぎを繰り返してきただけなのだ。

 不器用な生き方しかできなかったつまらない女が、王妃になったところで変わるはずがない。
 その理屈でいうなら、アンドレが愛してくれないのは、まさしくシュゼットのせいだ。

「私、愛されたくてたまらないんです。それなのに、絶対に愛してくれない人と結婚してしまいました。取り返しがつかないのに、もう結婚する前の自分には戻れないのに、それがとても悲しいんです……」

 シュゼットは両手で顔を覆って泣いた。

 ぼろぼろとこぼれる涙は、雨のように膝に降り注ぐ。
 その雫を十と数える前に、後ろに立っていたエリックの腕が体に回って――。

(あ……)

 気づけばシュゼットはきつく抱きしめられていた。