シュゼットはありがたく門を通らせてもらった。

 暗い細道を、街の明かりを頼りに進んでいると、ぽつぽつと雨が降り出した。
 傘はないので濡れながら進む。

 だいぶ気温が上がってきたとはいえ、夜の雨は冷たかった。
 頬を伝った雨粒をぬぐいもせずに、シュゼットは街灯のともった煉瓦の街を歩く。

(どこに行きましょう……)

 ジュディチェルリ家には戻れない。
 シュゼットが姿を見せたら、さんざん罵倒されて宮殿に連れ戻されるだろう。

 宿を取るにもお金がない。この都には人さらいも出るし野犬もいるという。女性がこの状態で歩いていたら、まず間違いなく標的になってしまう。

 いっそ、そうなった方がいいかもしれないと思い始めていた。

(もう、この世からいなくなりたいです……)

「シシィ?」

 呼ばれてはっとした。顔をあげると、傘をさして鞄を下げたエリックが、驚いた顔でこちらを見つめていた。

「ダーエ先生……」