おののくシュゼットの目に、ギラギラした側近と侍女たちの顔が飛び込んでくる。

(王太后様の手の者が宮殿にやってきていたのは、私の噂を集めるためだったんですね)

 宮殿に出入りしていれば、アンドレが街の女性を呼びつけていることも、彼がどこで夜を明かしているかも筒抜けだろう。

 ミランダは、シュゼットがろくに受け答えできないと見るや否や、扇で頬をパンと叩いた。

「きゃっ」
「この役立たず。跡継ぎも産まないくせに、よく宮殿にいられたものよね」

 よろめいたシュゼットに追い打ちをかけるように、ミランダは残念がった。

「やっぱり、顔に傷跡のある女が相手じゃだめだったのよ。可哀相なアンドレ。こんな醜い女をあてがわれて。貴方、アンドレに謝ったの?」
「い、いいえ」
「なぜ謝らないの? アンドレが寝室に来ないのは、貴方が悪いのに」

 まるでシュゼットに原因があると言わんばかりに、ミランダは問う。

(悪いのは、私なのですか?)

 目の前が一気に暗くなった。
 国王の訪れがなくても、王妃としての役目をしっかり果たしていれば、ここにいられると思っていた。

 それは間違いだった。

 国王の子を生めないとなれば、シュゼットは王妃失格。
 役立たずの烙印を押されて、虐げられる人生が待っている。

(ここも私の居場所ではない……)

 これまでシュゼットを支えてくれていた、王妃としての矜持が音を立てて崩れていく。

 ミランダの言葉が、アンドレの声が、頭の中で反響する。

 ――醜い。顔に傷跡があるなんて。
    地味で、暗くて、つまらない女。
     もしもカルロッタだったなら――

(お姉様だったら、陛下は愛してくださったのでしょうか?)

 答えが出ない。シュゼットはアンドレではないからだ。
 結婚してから今まで、彼の気持ちが理解できたことなど一度もなかった。

 知ろうとしなかったことも罪なのだろうか。
 分からない。
 わからない。

 ただただシュゼットは絶望していた。
 顔を隠しても、努力しても、耐え忍んでも認められないというなら。

(もう、ここにはいられません)

「……失礼します」