ふうと額の汗をぬぐった拍子にベールがずれた。
 彼の視線が額に釘付けになっているのを見て、シュゼットはヒヤッとする。

(傷跡を見られてしまいました……)

 未成年であるリシャールは、アンドレとシュゼットの結婚式に参加していない。ベールを取り去った顔を見ていなかった。

 きっとリシャールも、アンドレのようにシュゼットを醜いと思っただろう。
 エリックは気にしなかったけれど、彼のような聖人はごくわずかなのだ。

 シュゼットは慌ててベールを被り直す。

「王妃様……」

 リシャールは、ぽうっとのぼせたような表情をしていたが、我に返って両手を組み合わせた。

「王妃様がこんなにお美しい方だとは思いませんでした」
「美しい?」

 想定外の誉め言葉に、シュゼットはきょとんとする。

「リシャール様、お世辞はけっこうです」
「お世辞なんかじゃありません!」

 懸命に首を振って、リシャールは再度シュゼットを見上げた。
 夕日を映したオレンジ色の瞳の中に、ベールを被ったシュゼットが写っている。

 その表情は、初めてできた恋人に向けるような、うっとりしたものだった。

「僕、ずっと優しいお兄さんかお姉さんが欲しいと思っていたんです。これからは王妃様でなく、シュゼットお姉様とお呼びしてもいいですか?」

「かまいませんよ。これからも仲良くしてくださいね、リシャール様」

 にっこり微笑めば、リシャールの頬は真っ赤に染まった。
 まさか義弟に惚れられたとは、シュゼットは思いもしなかった。