肌にはシミ一つなく、笑わなければ皺もない。
 ドレスのデコルテからのぞくバストには張りがあり、肌の質感は艶めいている。
 それらが自信になってか、ミランダは微笑んで料理を食べているだけでも堂々としていた。

 小さく切った料理をフォークでそっと口元に運ぶシュゼットとは雲泥の差。
 まるで太陽と路傍の石だ。

(会話らしい会話もないですし、どうしましょう)

 貴族社会では、下位の者から上位の者には話しかけてはいけないという暗黙の了解がある。
 王妃よりも王太后の方が格が上なので、こちらから話を振るわけにもいかない。

 ルフェーブル公爵は慣れているのか、会話が弾まなくても楽しそうに料理を味わっていた。
 アンドレがラウルの悪口を言えば笑い、仲良くしてやってくださいと申し出る。

 気の毒なのはリシャールである。
 彼は前王と同じ黄金色の巻き毛を持ち、眼窩からあふれんばかりに大きなオレンジ色の瞳を持つ美少年だが気弱な性格らしい。

 そもそもの話、リシャールは王太后の子ではない。

 前王が一人だけ置いた側妃の子だが、リシャールが三歳の頃に逝去している。
 以降はルフェーブル公爵家で育っているので、アンドレよりラウルの方を兄と慕っているという噂だ。

 先ほどから気にしていたが、リシャールの顔色はずっと悪い。

(元気づけて差し上げたいです)

 デゼールまで食べ終えた一同は、別室に移動して紅茶を飲むことになった。
 アンドレ、宰相、王太后の順に席を立つ。

 シュゼットは、最後に部屋を出ようと思って待っていたのだが、リシャールがなかなか立ち上がらない。

 大きな瞳でシュゼットをうかがったかと思うと、ついにはボロボロ涙をこぼして泣き出してしまった。

「リシャール様、どうされました?」