見つけたという連絡は来なかった。

 ダーエを待たせて悪いという気持ちと、このまま見つからないでほしいという気持ちがないまぜになる。

 なぜなら、宮廷録が見つからなければ、いつまでもこうしてダーエと手紙をやりとりできるからだ。

(私、いつからこんな卑怯な子になってしまったのでしょう)

 こんなにも繋がっていたいと思う人間は初めてだった。

 これまではダーエの小説で描かれる恋愛模様にときめいていた。
 けれど今は、彼の本を見ているだけで胸が騒ぐ。

 作者名を思い浮かべるだけで、金色の髪をした美しい彼を思い浮かべてしまう。

「……いけません」

 エリック・ダーエは憧れの小説家だ。
 それ以上の人にしてしまったら、シュゼットが辛くなる。

 たとえ夫に愛されていなくても結婚している身。しかも王妃なのだ。
 今さら誰かを好きになる資格はない。

(でも、ファンとしてなら会っても許されるのではないでしょうか?)

 シュゼットは悪いことだと理解しながら、手紙の最後に追伸を書き記す。

  ――新刊の感想を直接お伝えしたいのです。どこかでお逢いできないでしょうか。短い時間でもかまいません。お返事を待っています。

 インクが渇いたのを確認して手紙を折りたたんだシュゼットは、出版社の住所を書いた封筒に入れた。
 メグに送ってくれるように頼むと、彼女はファンレターだと誤解してくれた。

「手紙を書いた、ということは、王妃様も読破されたんですね!」
「ええ。感動で涙が止まりませんでした」

 二人が怒涛の勢いで感想を語り合うので、侍女たちが反応に困っている。

(ごめんなさい。でも、この情熱はすぐに共有しないと薄れていってしまうのです)

 一度目の読書ほど素晴らしい時間はないとシュゼットは思っている。

 二度目はあらかた内容が分かった状態で読むので、一度目ほどの驚きがない。
 感想にも熱がこもらず、評論家みたいな意見になってしまいがちだ。

 メグも同意見で、二人は思う存分、はじめての物語から得た感動を語り合った。
 
 エリックからの返事が届いたのは、その五日後。
 毎週水曜日に訪れる喫茶店があるという、遠回しなお誘いが書かれていた。