ベッドの下からワンピースを引き出して着替える。
 いつも被っているベールを身につけると一発で王妃だとばれるし、化粧の仕方も分からないので今日は素顔をさらしたままだ。

 顔の傷跡は目立つ。けれど、そもそも傷が残っているのを知っているのはアンドレとメグと身近な侍女たちだけなので、見られても同情されて終わりだろう。

 簡単に身支度をととのえて、シュゼットは国王の部屋につながるドアに近寄った。

「こんにちは、ドアさん。お手数ですが、誰にも見つからずに宮殿の外に出る通路があったら教えていただけませんか?」

『愛の逃避行をなさるのね。素敵ですわ』

 ドアはうっとりした風に間をおいてから、怒涛のように話し出した。

『第八代王妃のアマンダ様を思い出します。彼女は、平民との道ならぬ恋のために、毎夜、国王陛下がおやすみになってから部屋を抜け出ておられたんですよ。彼女が通った道は宮殿に住むねずみに聞いたことがありますわ。とても険しい道のりだそうですか、それでもお通りになりますか?』

「はい。多少険しくても大丈夫です」

 ジュディチェルリ家では毎日、屋根裏部屋へのはしごを下りたり上ったりしていたのだ。
 足腰の強さには自信がある。

 シュゼットが答えると、ドアはアマンダが使っていた抜け道を教えてくれた。

 シュゼットは、聞いた通り支度部屋にあるクローゼットの壁を叩いていく。
 すると、左の一番端の壁が揺れた。

 隠し扉だ。
 押し上げるように圧をくわえて横にずらすと、ひやっとした空気が流れる裏通路に出た。
 明かりのない狭い一本道を手探りで進み、突き当たりを同じように押し開けて出る。
 出た先は廊下に置いてある彫像の裏だった。

 そこからは人目を避けて階段を下り、宮殿の裏に出る。

(誰にも見られずに屋外には出られました。つぎの関門は……)