ラウルは黙って待つメイドを振り返った。

「シュゼットはとても素晴らしい女性なんだ。読書好きで心が綺麗な人でもある。仲良くしてあげてほしい」

「わたくしどもの方こそ気に入っていただけるか心配ですわ。使用人はおしゃべり好きばかりなので面倒に思われないといいのですけど」

「彼女も話すのは好きなようだよ。たくさん話して、彼女が何を好きなのか俺に教えてくれ。まだエリック・ダーエの恋愛小説と、スフレケーキが好きなことしか知らないんだ。あと、顔の傷跡には触れないでほしい」

「承知しました」

 ドアを開けて居間に入ると、シュゼットは立ち上がった。

 ラウルがメイドを紹介し、店主がスフレケーキを持ってきてくれたことを話すと、彼女は嬉しそうに笑った。
 その表情は、顔に傷跡があるのを忘れるくらいに美しく、人に愛される顔だった。

 シュゼットがルフェーブル公爵家の面々に気に入られるまで時間がかからなかったのは言うまでもない。