アンドレを追放した後、ラウルはすぐさまシュゼットのために動き出した。

 結婚生活の間、一度も夫の手が付かなかったとはいえ、離婚歴がついた女性に対して上流階級の目は厳しい。

 しかもジュディチェルリ侯爵家は爵位を返上して平民となった。
 一家総出でシュゼットをいじめ抜くような連中だ。ほどなくして離散するだろう。

 実家の後援も期待できないとなれば、いよいよシュゼットの人生は立ち行かなくなる。

(離婚の慰謝料として多額の持参金を用意する方針だが、それだけでは困る)

 ラウルは、自分とシュゼットが無事に結ばれる物語を描こうとしていた。

 次期公爵となる自分と結ばれるには、元王妃の平民ではいけない。せめて同じくらいの家格の貴族に返り咲かせなければ、二人の未来は閉ざされる。

 新たな少年王リシャールの補佐として国王の役目を教えながら、出版社からの原稿を所望する声をはねのけて、ラウルは奔走した。

 そして今、シュゼットはルフェーブル公爵家の居間の椅子にちょこんと座っていた。
 ベールを取り払った顔はあどけなく、緊張した表情で部屋を見回している。

「あの、本当に今日からここで暮らしていいのでしょうか。急に来て、公爵家の皆さまはご迷惑ではありませんか?」

「君がこの家に来てくれて皆喜んでいるよ。そうでなければ、父も母もリシャール様もあんなに俺を応援してくれるはずがない」

「宰相やリシャール様も味方でいてくださるのは心強いですが、その……使用人の方々は?」

 そう言って、シュゼットは口を閉ざした。
 顔は青白く、血の気が引いているように見えた。

 彼女はジュディチェルリ家にいた頃、実の両親や姉だけでなく使用人にまで虐げられていたという。貴族の邸宅に入って、当時を思い出してしまったのだろう。

 ルフェーブル公爵家の使用人は真面目で、執事から侍女、下女下男にいたるまで仲がいい。

 しかし、それを来たばかりのシュゼットに話しても無意味だ。
 彼女自身が体感して、心を開いてもらわなければ意味がない。

「うちの使用人は心優しい人々ばかりだ。そんなに心配なら様子を見てこよう」