そして、ばっと放り投げた。
 足下に落ちた一枚を拾ったシュゼットは、目を通して首を傾げた。

 書きかけの小説かと思ったが違う。
 丹念に描かれた文章には、貴族議会の採択を行った証明である、国王リシャールと宰相ルフェーブル公爵の押印がなされている。

「これは……」

「シュゼット・ジュディチェルリの身上に対する陳述書だ。王族をかたるアンドレに騙されて名ばかりの王妃をやらされた君は、清い身のまま独身に戻ったと認められた。そして、爵位を取り上げられたジュディチェルリ侯爵家とは別に、特例で一代限りの女侯爵の地位を与えられる」

「私が、貴族に?」

 にわかには信じられなかった。
 偽王の王妃だった過去を背負い、平民に落ちた自分は、田舎に隠れ住むしか生きていけないと思っていたのに――。

 ふわふわした心地で視線を上げると、ラウルの目の下にクマができている。
 彼は、リシャールを支えるために多忙なのだと思っていたけれど、本当は。

「私を救うために、議会にかけあっていたのですか?」

「俺は諦めが悪いんだ」

 今にも泣き出しそうなシュゼットの手を取って、ラウルは照れくさそうに微笑んだ。

「シュゼット、俺はどんな名声や財宝よりも君がほしい。俺は、カルロッタのおさがりとして君に与えられた物とは違う。君自身に選ばれるためなら何だってできる男なんだ」

「あなたを望んで、本当にいいのですか?」

 シュゼットは震える唇で問いかける。

「もう何も、諦めなくていいのですか?」
「ああ」

 頷くラウルを見たら、ぶわっと涙があふれてきた。

「っ、ラウル様」

 シュゼットは腕を広げてラウルに抱きついた。
 頬を伝う涙をそのままに、結ばれなかった間の寂しさを埋めるように力をこめる。

「私、ラウル様と一緒にいたいです。もう二度と離れたくない」
「俺もだ。……愛してる」

 ラウルもシュゼットを強く抱き返してくれた。

 はたから見れば、シュゼットは姉の元婚約者というおさがりを手に入れたように見えるだろう。

 けれど、ラウルは与えられたものではない。

 シュゼットが自ら恋し、心から結ばれたいと願った、この世でただ一人の相手なのである。