(もうどのくらい顔を見ていないでしょう)

 リシャールの即位式以降、ラウルはシュゼットの前に姿を現さなかった。
 シュゼットの方も、彼は国王補佐として忙しく働いているのだろうと思って連絡を取らなかった。

(会えば別れがつらくなりますから)

 だからこれでいい。
 どうせ結ばれないのなら、このまま離れてしまった方が。

 シュゼットは、黄色く色づいた落葉の中を馬車に向かって進んでいく。
 乾いた葉はカサカサと音を立てて、シュゼットの足にまとわりつく。

 邪魔しないでほしい。

 このまま、シュゼットは誰も知る人の田舎に向かい、王家や貴族とは距離を置いてただ静かに生きるのだ。

 寂しくはない。

 だって、シュゼットにはエリック・ダーエという愛しい作家がいるから。

 彼がつむぐ美しい物語があれば生きていける。
 彼の世界にひたってさえいれば、シュゼットは彼に抱きしめられた夜や、激しく唇を求められた瞬間を、色鮮やかに思い出せるから。

(ラウル様。私はどこにいても、あなたを愛し続けます)

 シュゼットは胸を焦がして祈った。

 たとえ離れていても。たとえラウルが、シュゼットではない誰かを愛すようになっても、この恋は永遠だ。

「どこに行くつもりだ?」