頑ななシュゼットに、宰相は心配そうに腕を組んだ。

「女性の二人暮らしは大変ですよ。どこかで必ず男手が必要になりますし、雇う相手も選ばなくてはなりません。我がルフェーブル公爵家に身を寄せられてはいかがですか?」

 ラウルもいますし、と宰相は笑う。
 宰相はラウルとシュゼットがお互いに恋焦がれていることをお見通しだった。
 しかし、シュゼットはそれではだめだと首を振る。

「これ以上ラウル様に迷惑をかけたくないんです。私は名ばかりの王妃でしたが、前王と離婚した事実は一生ついて回ります。もはや貴族でもない私と関係を続けては、ラウル様の評判が落ちます。せっかくリシャール様を補佐する大事な役目を仰せつかったのに、台無しにしてしまいます」

 ラウルは、相変わらず国王補佐を続けている。
 アンドレに比べてリシャールは勤勉で物分かりがいいので、ストレスはさほど溜まっていないようだ。

 貴族もアンドレを陰ながら支え、国を動かしていたラウルに一目置いている。

(ラウル様は、有力な名家の令嬢と結婚して、リシャール様の治世を支える体制を整えるべきです)

 没落し、平民に成り下がったシュゼットでは、次期公爵のラウルとは身分違いだ。
 愛し合っていても結婚はできない。

 そして、結婚せずに関係だけ続けるような汚い真似を、彼にさせたくはない。
 ラウルの幸せを願うならば、シュゼットはここで身を引くべきだ。

「そろそろ出ないと、宿屋にたどり着く前に夜になってしまいますので失礼します。ラウル様に伝言をお願いできますか。いつもあなたの幸せを願っています、と」

「ラウルがそれで納得するとは思えません」
「私もそう思います」

 シュゼットは、ふふっと微笑んで面会室を出た。
 彼女を玄関口まで送っていった宰相は、廊下に控えていたバルドに目を丸くした。

「君がいるということは、間に合いそうかい?」

「あのラウル様ですよ? 無理を通すに決まっています」