「なりません」

 衛兵長によって止められて、ミランダは膝から崩れ落ちる。

 ラウルはバルドが並べた宮廷録から、ちょうど二十七年前の一冊を持ち上げた。

「これらはアンドレ様がお生まれになってから前後三年分の宮廷録です。宮廷録は宮殿と王立図書館と公文書館に保管されているはずですが、この六冊だけが欠けていました。それを見つけてくださったのは、王妃様です」

 目元からすっと力を抜いて、ラウルはシュゼットを見つめた。

(分かりました)

 シュゼットは、キッと眉を上げた。

 これまで、エリック・ダーエの小説に救われてきた。
 どんなに辛い境遇でも華麗に戦うヒロインたちに、生きる勇気をもらってきた。

(今度は私が)

 この〝おさがり姫〟という物語のヒロインとして戦い抜いてみせる。

 シュゼットは議会場のすみずみまで響き渡るように声を張った。

「その宮廷録は、祖父が隠し棚に入れていたものでした。なぜ隠したかというと、王太后様の命令で焼き払われそうになったからです」

「お願い、もうやめて!」

 アンドレは、泣き崩れるミランダを見てようやく何事か察したらしく、さっと顔色を変える。

「まさか、僕は」

 おののくアンドレが聞き逃さないよう、シュゼットは一字一句ゆっくりと伝えた。

「陛下は、前王のお子ではございません。それは、王太后様が一番よくご存じのはずです」

「本当なの、お母様?」

 息子に問いただされたミランダは、厚塗りの化粧が落ちるほどの涙を流しながら、真実をぶちまけた。

「そうよ。アンドレは陛下の子ではないわ。愛していたレイエ家のお兄様との間に授かった子だった! わたくしは他の人となんて結婚したくなかったのに、望まない結婚をさせられた! その腹いせにアンドレを生んだのよ!!」