(え?)

 このタイミングで、ブレスレットが話し出した。

『エメラルドを押し込むと仕掛けが動きます。そこに代々の王妃を救ってきた緊急用の解毒剤があるのです』

 シュゼットは藁にもすがる思いでブレスレットに手をはわせ、大ぶりなエメラルドを押し込んだ。
 カチッと溝にはまる感覚があって、中から小さな錠剤が現れた。

(これが解毒剤!)

 白い粒を、シュゼットは口に放り込んだ。

「王妃様!?」

 顔色を変えたラウルが駆け寄ってくるのを、シュゼットは手で制した。

 舌の上でじわっと溶けた錠剤は苦い。
 思い切って飲み込むと、薬の成分が触れた喉の内側が温かくなる。

 毒を飲まされてから感じていた痺れが、すうっと消えていった。
 これなら話せる。

「……大丈夫。今のは気付け薬です」

 話し出したシュゼットは、大丈夫だとラウルに微笑む。

「……ラウル殿は、陛下とお姉さまの仕打ちに苦しんでいた私を支えてくれました。それを裏切りと呼ぶのであれば、私も黙ってはいられません」

 これで完全に風向きが変わった。

 議会は紛糾し、カルロッタやアンドレに避難の声が浴びせかけられる。

「国王陛下、どういうことですか!」
「結婚相手ではなく、その姉にほだされるなどあってはならないことですぞ!」
「その娘を捕えろ!」

 野次を聞いて動き出した衛兵は、逃げようとしたカルロッタを捕まえ、後ろ手に縛ってひざまずかせた。

「なっ、なんでみんなシュゼットの言うことを信じるのよ! その子は嘘つきのおさがり姫なのに!!」