(ラウル殿は、私を自由にしてみせると言いました)

 舞踏会の夜以来、シュゼットはラウルに言われた言葉を反芻して日々を過ごしていた。

 相変わらずアンドレは姿を見せなかったが、そんな生活にも慣れた。
 寂しいのはラウルとも会えなくなってしまったことだ。

 彼はさらに多忙になってルフェーブル公爵家にも帰ってこないのだと、庭の薔薇を手入れしにきたリシャールが教えてくれた。

 宮殿にもいない。実家にもいない。

 ラウルは今頃、何をしているのだろう。体
 調を崩していないだろうか。

 会えないまま二週間が過ぎ、やっと顔を見られる日がやってきた。


 貴族議会の開幕式だ。

 慣例により、王族はみな出席することになっている。
 そこには国王補佐のラウルもいるはずだ。

 アンドレが先に議事堂へ向かったので、シュゼットは一人で王族用の馬車に乗り込んだ。

 正式な式典ということもあり、今日のシュゼットはベールを被っていない。
 傷跡を化粧で隠し、衿の詰まった清楚なドレスを身につけて、手首にはエメラルドと真珠のブレスレットを巻いている。

 何度か話しかけてみたが、あの舞踏会の日以来、ブレスレットが話してくれることはなかった。

 今日はラウルの顔を見られるだろうか。
 ぼんやり車窓をながめていたら、馬車は議事堂の正面ではなく裏手の小道に入って止まった。

(道を間違っているのでは……?)

「王妃様、どうぞ」