ラウルは、思いつめるシュゼットの雰囲気に息をのんだ。
 そして、ふっと微笑んだ。

「君が意味のない嘘をつく人間ではないことは、十分に分かっている。俺の代わりに聞いてほしい。いったい誰が、六年分の宮廷録を隠したのか」

 こくんと頷いたシュゼットは、積み上がった宮廷録に話しかけた。

「宮廷録さん、どうしておじいさまがあなたを隠したのか覚えていますか?」
『……言ったら焼かない?』

 聞こえてきたのは、小さな囁き声だ。
 かくれんぼの途中のように密やかなので、シュゼットはラウルにしーっと合図して耳を澄ます。

「絶対に焼かせません。あなたのことは、私が守ります」

『ありがとう。彼はこう言っていたわ。――王太后がひそかに六年分の宮廷録を焼き払っているらしい。もしかしたらこの屋敷にも使者が来るかもしれないから隠しておく。誰かが見つけて真実を暴くまで、静かに眠っていてほしい――』

 祖父は宮廷録に愛情を持っていたようだ。
 毎日欠かさず記して、自宅にも写しを保管するくらい思い入れがあったから、こうしてシュゼットは真実を知ることができた。

(ありがとう、おじいさま)

 何も聞こえなかったらしいラウルは、シュゼットに問いかける。

「宮廷録はなんと?」
「王太后様の指示で、焼き払われそうになったそうです」