ジュリーの方はラウルの意図を察して、重たい荷物を下ろした時のようにふーっと長く息を吐いた。

「……それだけではなかったと思います。父は、ミランダ様が魅力的な少女になる頃には結婚して、私という子どもがいました。幼い私は、よくミランダ様に遊んでもらいましたよ。今から思えば、あれは二人の密会のついでだったんでしょう」

 前レイリ伯爵は、ミランダの美しさに溺れた。
 ミランダの方も、兄と慕ってきた人と結ばれるためなら不義の関係でもよかった。

 しかし、ミランダは王太子に見初められてしまった。

 王家に輿入れすることは貴族として誉れだ。
 たとえ令嬢が望んでいなくとも、家長は絶対にその幸運を逃さない。

 ミランダの場合も同じだろう。
 拒否できない結婚で引き剥がされた彼女と前レイリ伯爵は、領地から遠い王都に場所を移してさらなる裏切りを重ねていく。

「父はよく宮殿に出仕していました。仕事のためと話していましたが、ミランダ様に会っていたのでしょう。隣国との小競り合いがあった頃なんて、ほとんど家に帰って来なかったんですよ。毎日のように父宛ての手紙を書いていた母を思い出します」

 寂しそうに微笑むジュリーに、ラウルは宮廷録の二冊目を開いて見せた。

「前王が出征されていた間、不安定なミランダ様を支えるためという名目で、前レイリ伯爵が宮殿に滞在していたようです。戦が終わって前王が凱旋されるのに合わせて、彼は領地に帰りました。そして、それからちょうど七ヶ月後に、アンドレ様がお生まれになった」

「七ヶ月後ですか?」

 シュゼットもおかしいと気づいた。

 子どもは普通、母親のお腹に宿ってから十月十日で生まれてくるはずだ。

 ラウルは答え合わせをするように、三冊目のアンドレが誕生した日を指さした。

「アンドレ様のお産に問題はありませんでした。身長、体重、すべて平均以上。早産ではありえない。ミランダ様の妊娠は、前王が戻ってくる前だったということです」

 暴かれた真実は、シュゼットの想像を超えていた。

「ということは、国王陛下は……」

「前王の血を引いていない。我々は、王になる資格がない人物を即位させてしまった」