ラウルが変化のない日常をいぶかしんでいたように、シュゼットも違和感を覚えたらしい。

 ベールを外したシュゼットは、不安そうな目でラウルを見上げた。

「どうして王太后様は私たちのことを話さないんでしょうか。私のことを嫌っているようですから、絶対に問題になさると思っていたのに……」
「言えない理由があるのかもしれない」

 不安がるシュゼットの頬を、ラウルは心配そうに撫でる。

「少し痩せてしまったな。心配で喉を通らないのかもしれないが、ちゃんと食べてくれ。可愛い顔が台無しだ」
「わ、私は別に可愛くないです」

 シュゼットは、さりげなくラウルの手から離れた。

(まただ)

 ラウルがカルロッタと婚約者だったと聞いてから、シュゼットの様子がおかしい。
 姉を憎んでいるせいかと思ったが、どうも違うようだ。

(おさがり姫という呼び名と関係あるのだろうか)

 バルドがちらちら見てくるのに気づいて、ラウルは時計を見た。

「すまない。もうすぐ面会の時間なんだ」
「どなたとですか?」
「レイリ伯爵だ。君が見つけてくれた六年分の宮廷録の謎を解くために呼んだ」

 宮廷録と聞いて、シュゼットは姿勢を正した。
 表情はキッと引き締まり、まなざしには文官のような聡明さが宿る。

「私も同席させてくれませんか? 祖父がなぜあの宮廷録だけ隠していたのか、知りたいんです」

 紛失していた宮廷録を見つけたのはシュゼットの功績だ。
 そして、六年の間に浮かび上がったアンドレ出生の謎については、当然、彼の妻である彼女にも知る権利がある。

「面白い話ではないと思うが……」
「王妃命令でもだめですか?」

 そこまで言うならとラウルは頷いて、ベールを被り直したシュゼットを面会室までエスコートした。