「ラウル・ルフェーブルが走っていくのが見えたから、何かあると思って来てみたら。こういうことだったの。国王補佐と密会だなんて、あんたもやるときはやるのね」

 カルロッタに嘲笑されると、シュゼットの体がすくむ。
 ラウルはシュゼットを背にかばって反論した。

「カルロッタ嬢、王妃様は何も悪くありません。私が一方的に迫っていただけです」
「ち、違います。悪いのは私です!」

 お互いをかばう様子は、カルロッタを余計にたかぶらせた。

「何が違うのよ。アンドレ様を放ってキスする関係が不義以外の何だっていうのよ」
「放って……?」

 シュゼットの胸の奥がチリッと焦げた。
 今まで受けた仕打ちを思い出したら黙っていられなかった。

 ラウルを押しのけるように前に出て、姉に食ってかかる。

「私は、陛下を放っておいたことなんてありません。初夜の晩からずっと、陛下が逢いに来てくださるのを待っていました。結婚相手を放っておいたのは陛下の方です!」

 結婚式の夜から一人で眠っているのも、いまだに懐妊していないのもシュゼットのせいではない。
 消えない傷跡をつけたのも、望まない結婚を受け入れたのも、全てアンドレだ。

「あのとき、陛下とまぐわうお姉様を見て私がどれだけ傷ついたか分かりますか。毎日知らない女性と過ごされて、ないがしろにされる気持ちが分かりますか。私の婚約者だと知っていながら、陛下を誘惑して関係を持っていたお姉様に、そんなことを言われる筋合いはありません!」

 顔を真っ赤にしての精いっぱいの反論を、カルロッタは鼻で笑った。

「昔から口だけは達者よね。あんたが何を言おうと、陛下が選んだのはあたしなのよ。あんたはあたしのおさがりがお似合いだって、自分でも分かってるはずよ。だから、その男を選んだんでしょう?」

 赤いネイルを施した指がラウルへと向いた。
 ラウルは口を一文字に引き結んで、カルロッタをにらんでいる。

「その男は、あたしの婚約者だった男よ。かわいそうなシュゼット。あんた、またあたしのおさがりにすがるのね」

「お姉さまとラウル殿が、婚約……?」