シュゼットは国王夫妻に用意された控室に入ると、すぐさま床にくずおれた。

「うっ、うう」

 涙が次から次へとあふれてきて、両手で顔を覆ったくらいでは止まらなかった。

「王妃になんかなりたくなかった……」

 こんな思いをするくらいなら、一生ジュディチェルリ家の屋根裏にいればよかった。

 あそこでは、使用人のように扱われて蔑まれても、心だけは自由でいられた。
 エリック・ダーエの小説に胸を高鳴らせ、まだ見ぬ未来を想像して、ひたむきに生きることができた。

 あの日々に比べて、王妃になってからの人生はなんと悲惨なものだろう。

 初夜の晩に、幸せになれる可能性はついえた。
 それ以来、シュゼットは鍵をなくした宝箱に閉じ込められてしまったように、真っ暗な世界であがき続けている。

 孤独が首を締め上げる。
 苦しい。こんなにつらい思いをするなら、いっそ死んでしまいたい。

 お願い、誰か。

「私を殺して――」
「ここか」

 ノックもせずに入ってきた男性の姿に、シュゼットの鼓動が止まった。

「ラ、ウル殿?」

 仕事を抜け出して大急ぎで駆けつけたのだろう。
 いつも身につけている騎士服の袖はインクで汚れていて、髪は乱れ、額には汗をかいている。

 ラウルは、絶句するシュゼットの頬が涙で濡れているのを見て苦しそうに眉をひそめ、強引に抱きしめてきた。

「バルドが知らせに来た。国王陛下が、君ではなく君の姉と最初のダンスを踊っていると!」