誰一人として、シュゼットを一番に選んでくれないこの人生が。
 でも、こうなったのは自業自得でもあった。

 シュゼットは、こんな自分を愛してくれるたった一人の男性を自ら突き放したのだから。

 アンドレに傷つけられた胸に手を当てる。
 心臓の辺りがズキズキ痛い。

(ラウル、会いたいです……)

 大好きな人を思い出したら、じわっと涙が浮かんできた。

 華麗に踊るカルロッタとアンドレが、水面越しで見るように揺らめく。
 吊られた大きなシャンデリアの明かりがギラギラ目を刺す。

 いけない。
 このままでは涙があふれてしまう。

(人前で泣いては、王妃らしくありません)

 シュゼットは顔をうつむけて壇上から下りた。
 そして、人目をはばかるように廊下へ出た。

 幸いにも、衆目は踊るアンドレとカルロッタに引き付けられていて、シュゼットが下がったことに気づかない。

 たった一人、扇で口元を隠したミランダが見ていた以外は。