呼びかけられて振り向いたのは、赤い髪を巻いて、唇に真っ赤なルージュを塗ったシュゼットの姉だった。

「僕は彼女と踊るから」
「えっ?」

 シュゼットは、アンドレに手を振り払われてあ然とした。
 アンドレはカルロッタの方に向かっていく。

「待ってください。陛下!」

 叫んでも彼は立ち止まらない。
 うっとりした表情で待っていたカルロッタの手を取って、うやうやしくキスをする。

「今日は無礼講だっていうから、君と踊ることにするよ。みんなも美しい令嬢が躍っていた方が嬉しいだろう」
「光栄ですわ、国王陛下」

 笑顔で応じていたカルロッタが、一瞬、シュゼットの方を見て表情を歪めた。

 それは勝者の表情。

 貴族が集まった社交の場で、王妃よりも国王に気に入られているのだと見せつけて悦にひたる女の顔だった。

 姉の意地悪な表情を見たら、シュゼットの頭から血の気が引いた。

 脳裏には、以前カルロッタから浴びせかけられた言葉がよみがえる。

 ――あんたの夫はあたしのおさがりなの。あんたは一生、あたしの手垢がついたものにすがって生きていくのよ!――

「そうでした……」

 シュゼットは〝おさがり姫〟なのだ。

 婚約しても、結婚しても、この先の未来で奇跡的に国王の子どもを産んだとしても、永遠に姉よりも幸せにはなれない。

 シュゼットが手に入れられるものは、何もかもが下げ渡されたもの。

(さびしい)