舞踏会というと、いかにも貴族的な催しだ。

 貴族令嬢はみんな舞踏会が大好きである。
 だってドレスを新調できるし、家に伝わる豪華な宝石を身につけられるし、絢爛豪華な舞踏場に足を踏み入れられる。
 まだ見ぬ貴公子との出会いも期待できるとあって、この日に向けて気合いを入れるのが令嬢の務めでもあった。

 けれど、シュゼットは舞踏会と聞くだけで憂うつになる。
 ダンスが苦手なのだ。

 両親が社交場に連れ歩くのはカルロッタだけで、シュゼットはいつも留守番だった。
 男性と踊った経験もほとんどない。

 最近になって、ダンス教師からステップを徹底的に教え込まれたものの、相手の足を踏まないで一曲踊り切れる保証はどこにもなかった。

「……でも、頑張らなくては。今日は国王陛下と初めて踊るのですから」

 今日は王太后が主催の舞踏会だ。
 国中の貴族に招待状が送られた豪華なもので、主賓はアンドレとシュゼットの国王夫妻である。

 舞踏会の最初の一曲は、主賓が躍ると定められている。
 目立つ役どころなので、メグたちが気合いを入れてシュゼットを着飾らせてくれた。

 この日のために仕立てたドレスは、フィルマン王国の国旗の色でもある緑をメインにした格式高いデザインだ。
 デコルテは大きく開いていて、鯨の骨で曲線を形作ったコルセットは腰を細く締め上げ、広がった三段スカートのボリュームを強調している。

 二の腕まであるロンググローブには、王太后が王妃だった頃に使っていた大粒のエメラルドと真珠のブレスレットを巻いている。

 メグの話によると、アンドレは前王が使用していたエメラルドのラベルピンを身につけるのだそうだ。
 宮廷服もシュゼットのドレスと同じ生地で仕立てた特注品で、いかにも思い合っている夫婦に見えるような仕掛けが施されている。

(私たちの関係は冷え切っているのに……)