ラウルの問いかけに、リシャールはぽっと頬を赤らめた。

「うん。お姉様とお話していると、お母様を思い出すよ。あの人と結婚したアンドレお兄様がうらやましい」
「……そうですね」

 ラウルはてらいなく同意した。
 シュゼットと結婚したアンドレがうらやましくて憎いくらいだ。

 しかし、彼は国王。
 ラウルが心酔していた前王の血が流れる相手である。

 ラウルは、アンドレのことを絶対的に敬らなければならない存在だと思って生きてきた――これまでは。

(だが、アンドレが前王の子でないとしたら?)

 不義の末に生まれた子だと証明できれば、国王の座から引きずり降ろせる。
 シュゼットを、愛されない王妃の座から救い出すにはこれしかない。

 顎に手をかけて考え込むラウルに、リシャールはクスクスと笑いかけた。

「ラウルもうらやましいんだね。ひょっとして、王妃様が好きなの?」

 問いかけてくるリシャールの瞳は純粋だ。

 駆け引きや打算のない純粋な気持ちでシュゼットを想っている。
 不貞という概念など存在も知らないに違いない。

 憧れの気持ちを恋だと誤解できるリシャールを、ラウルはまぶしく思う。

(俺とは違うな)

 ラウルは、あわよくばシュゼットを自分だけの物にしたいと思っている。
 アンドレの手から救い出して、恋愛小説のヒロインとヒーローのように結ばれたいと願っている。

 ――彼女に拒絶された今も。